東京高等裁判所 昭和40年(行ケ)102号 判決 1967年5月18日
原告 株式会社 ゼネラル
被告 特許庁長官
主文
昭和三九年審判第一、七五四号事件について、特許庁が昭和四〇年八月一七日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一双方の申立
原告は主文同旨の判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二原告の請求原因等
一、原告は、昭和三五年九月八日、別紙(一)に示すような角ゴシツク体の「X」のローマ字と同書体の「ライン」の片仮名文字とを一連に横書きにした商標について、商標法施行規則第三条所定の第一一類電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具、電気材料を指定商品として、商標登録出願をしたところ(昭和三五年商標登録願第三四、四〇七号)、昭和三九年二月二〇日拒絶査定を受けたので、同年四月二日審判を請求したが(昭和三九年審判第一、七五四号)、昭和四〇年八月一七日「本件審判の請求は成り立たない」旨の審決があり、その謄本は同年九月一日原告に送達された。
本件審決は、別紙(二)記載の、ゴジツク体で「SUPERLINE」の英文字を一連に横書きした登録商標第五七六、〇五四号(以下引用商標という。)を引用して、原告の本願商標は、商標法第四条第一項第一一号に該当し、登録要件を具備していないというにある。
そして、本件審決はその理由として、
「よつて両商標を比照するに両商標の構成は上述の通りであるから、外観上は判然と弁別し得る差異があるとしても、これをその称呼上及び観念上よりみるときには、前者の構成は商品の記号又は型式等を示す意味に於いて、この種業界に於いて普通に使用されうるものと認められる「アルフアベツト」の「X」の文字と「ライン」の片仮名文字とを単に一連に表示して成るに過ぎないから、かかる構成からは、「エツクスライン」と称呼され得ることを強ち否定するものではないが、又「ライン」の文字は分離してもこの部分自体自他商品の識別標識としての機能を有するものであるとするを経験則に徴するに相当と認められる。これに対し、後者の「SUPERLINE」の文字中「SUPER」の文字は「優秀な」又は「優良な」等の意味を以て商品の品質又は品位を誇称する為に普通に使用せられているところであるから、引用の登録商標中の「LINE」の文字は一般にもつともよく親しまれ自他商品の区別標識として特に顕著(記憶し易く、呼び易い)であるので、「ライン」の称呼と「線」の観念を生ずるものとするのが取引の通念に照し相当である。
してみれば、本願商標と引用登録商標とは「ライン」(線)の称呼及び観念を共通にする類似の商標といわなければならない。しかも、両者はその指定商品においても互に牴触するものであるから、本願商標は商標法第四条第一項第一一号の規定に該当し、その登録を拒絶すべきもの(同法第一五条第一号)であるというを免れない。」
というのである。
二、本件審決は、本願商標および引用商標のそれぞれについての認識を誤り、その類否の判断を誤つているので、違法として取消されるべきである。
本件審決は、本願商標と引用商標とがその外観の構成上判然と弁別しうる差異のあることを認めながら、なおかつ本願商標の「X」および引用商標の「SUPER」の各文字を文字の用法上または指定商品を取扱う業界においては、単なる慣用文字とされていると断じて、これを捨象し、残る「ライン」あるいは「LINE」の文字をもつて自他商品の識別標識としての顕著性ありとして、両商標は要するに、称呼および観念を共通にする類似の商標であると認定している。
しかし、このような認識の仕方は、商標を構成する文字、図形、記号、色彩およびこれらの組合わせ(結合)そのものを機械的に分離切断して、その本来表現すべき意味内容や心象(すなわち称呼および観念から生ずるイメージ)を歪曲また消去し、ひいては全体観察、外観観察、離隔観察など商標類否の判断に必要な諸法則や言葉本来のもつ意味や、心理学的、社会学的経験則そのものをも無視した議論といわなければならない。
商標は、観念的存在ではなく、取引界において現実に認識される実体的存在すなわち活きものであるから、このような活きものを考察評価するに当つては、この活きものが活動している場合、すなわち、取引界に実際行なわれている認識方法に従つて合目的的に考察評価しなければならない。商標の実体的存在と観念的評価とが遊離したのでは現実の取引に対する一つの規制として作用する商標制度の適正な運用が期待できないからである。しかるに、被告の考察評価はこのような取引界の商標認識方法に従つていない点において重大な誤りを犯している。
(一) 本願商標について
1 外観
本願商標は、角ゴジツク体の「X」というローマ字と同書体の「ライン」という片仮名を一連に左横書きしたものである。
2 称呼
本願商標は、前記のような構成から、一般に日本語で「エツクスライン」または「エキスライン」と発音されるのが自然であり、これを「エツクス」―「ライン」または「エキス」―「ライン」と分離しかつ引き離して発音するのはきわめて不自然である。「エツクス」ないし「エキス」の語尾音「ス」と「ライン」とが発音上一体的に、すなわち「スライン」として発音するのに適当であり、しかも全体として「エツクスライン」は「エツク」にアクセントがある結果それに続く「スライン」と一体となり、一気に発音されるからである。かくして本願商標は称呼上、長すぎるとか複雑であるとか全体として呼称しにくいといつたようなものには該当せず、一息に発音されるものであるし、また次に述べるように「X」と「ライン」が一体不可分として独自の観念を生ずるものであることとも相まつて、「エツクス」「エキス」を省き単に「ライン」というだけの称呼が生ずると解すべき余地は全く存しないのである。
3 観念
本願商標を構成する英文字の「X」についてみるに、この字は、「未知のもの」「不可知のもの」などの意味をもつ言葉として一般に理解されており、またその形状からローマ数字の「一〇」として用いられるが、同時にそれは「相交差する二本の斜線」というイメージを生ずる。そこで、この「X」というローマ字と片仮名の「ライン」を組み合せたところから、本願商標は形象的ないしは図形的な観念をも生ずるものである。
すなわち、本願商標は、「Xライン」の全体で一つのまとまつた意味を有するものであり、前記の図形的効果とあわせて「未知の線」「不可知の線」との観念を生ずると同時に、「二本の斜交した線」(二本の未知の斜交線、不思議な二本の線など)の観念とイメージを看者に与える。このように本願商標は、いわゆる熟語ではないけれども、全体として一つのまとまつた意味を有し、一体不可分のものとして認識され、一般需要家に独自の印象を与えるのである。
審決は「X」が商品の記号または型式等を示す意味において業界で普通に使用される文字であり、「ライン」のみでも自他商品の識別機能を有するとの理由でこれを分離して考察し、本願商標はその片仮名の部分から単に「ライン」の称呼とともに「線」なる観念をも生ずると説示している。しかし、「X」が商品のいかなる記号ないしは型式を示す語として用いられているというのが理解に苦しむところであるばかりでなく、「ライン」から生ずる「線」という観念は、単にそれだけでは漠とした訴求力の弱い観念であり、むしろ「X」の方が記憶性も高く、心理的に訴求力の強い観念なのである。このような「X」と「ライン」とを一連に書き表わした場合には、特に「X」状に相交差する二本の斜線というイメージがはつきりと強化され、「Xライン」として不可分にかつ強固に結合して認識されるものといえる。したがつて、本願商標の観念を一体的に把握せず、商標を構成する文字のうち重要な機能を有する「X」の方を切りはなし「ライン」の部分から単に「ライン」の称呼と「線」なる観念を生ずるとしている審決は、本願商標につき、称呼の認定とともに観念の認定をも誤つているものというべきである。
4 実際においても、原告は、早くからその製造するテレビジヨン受像機一四SB型を「Xライン」の標章を付して売り出し、好評を博し、「Xライン」テレビの名で市場を風びしたのである。しかも、右テレビジヨン受像機の意匠として、プラウン管の左右に配設したいわゆるスピーカー・グリルの形状および模様をプラウン管の中心部に向つて逆放射状に集中するように斜線を形成したので、その斜線が機体中央の画面の映像を介してX状に交錯形成されていることから、視聴者に対して画面の立体感を与えるし、また、スピーカー・グリルから発する音声も画面上でステレオ的に立体交差する音感を与えるのである。そして、この意匠については、昭和三五年一二月一六日登録第一六九、一五一号をもつて原告のため意匠権の設定登録がされている。本願商標は、まさにこの意匠権と表裏一体の関係にあるものとして宣伝広告されてきたものである。
(二) 引用商標について
1 外観
引用商標は、一連に横書きした「SUPERLINE」というローマ字から構成されている。
2 称呼
前記の構成からみて、さらにまた後述のような「SUPER」と「LINE」の関係からみて、引用商標からは、一体不可分的に「スーパーライン」(または「シユーパーライン」)という称呼のみが生ずるとみるべきである。
3 観念
引用商標は、「SUPER」と「LINE」を結合した一種の造語とみるべきである。審決は、「SUPER」が商品の品質または品位を誇称するため普通に使用される語にすぎず、これに反して「LINE」は一般に「線」という意味に解され親しまれている語でそれ自体商品の識別標識としての機能を有するものであるとの理由で、引用商標からは単に「ラインン」の称呼と「線」の観念を生ずると認定しているのであるが、これは引用商標における「SUPER」なる語の使用の態様に考慮を払わず、「LINE」なる語が引用商標中において如何なる性格の語として使用されているかの点の省察を怠り、ひいては引用商標全体の性格ないし意匠構造を正しく認識していないことによるものといわなければならない。
「SUPER」なる語が、商品の等級表示として使用され認識されることがあるのは事実であるが、それは次のような場合においてである。
(イ) 「SUPER」の文字が独立して認識されるような状態で商品に使用された場合(この場合は該商品の特定の品質についてでなく、該商品全体の品質の優良なことを表示するものとして認識される。)
(ロ) 「SUPER」の文字が商品の品質を表わす語とともに使用された場合〔この場合は、該品質において優良であることを表わす、例えばSUPERSENSITIVITY(高感度)など〕また商品の普通名称とともに使用された場合(この場合は、該商品として優良であることを表わす)
(ハ) 「スーパーラジオ受信機」がスーパヘテロダイン受信方式を備えたラジオ受信機を表わすというように慣用的な場合
右に挙げた用法に従つていない場合には、「SUPER」の文字を用いても、それは商品の等級表示としては認識されないのである。このような用例として、(1)「SUPERMARKET」や「SUPERMAN」のように既成語として商品の品質に全く関係のないものとして通用している場合があり、また(2)、右のような既成語の程度に至らないまでも、直接商品の品質に関係のない語と結合した造語(引用商標「SUPERLINE」もこれに属する)の場合がある。
このように、「SUPER」の文字が附されているからといつて、必ずしも商品の等級表示となるわけではないのであつて、「SUPER」の文字(語)がどのような状態で使用されているかによつて、意味がちがつてくるのである。引用商標における「SUPER」は、それに続く「LINE」の文字が商品の品質を表示するものと認識すべき特段の理由はないし、その他前に挙げた「SUPER」の等級表示としての用法のいずれにも当らない態様で使用されているのであるから、引用商標中の「SUPER」を商品の等級表示とみることはできない。
次に、「LINE」という文字は、それが空路、航路、軌鉄路等の名称に附せられたような場合には、特定の意味を表示することもあるが、単独で使用された場合には漠とした観念しか生じないばかりでなく、それが商標中において使用される場合には、造語商標をつくるに当つての常套的な方法として、これを附飾的接尾語として他の語と結合させて使用することが多く行なわれているのであつて、例えば、「DAYLINE」(登録第四二五、九六〇号)・「HITLINE」(同第四八五、四三三号)・「RINGLINE」(同第四七六、一五五号)・「MAGICLINE」(同第四九四、八四一号)・「ルミライン」(同第五四六、一〇三号)・「トリムライン」(同第五五四、一〇三号)といつたような登録商標における「LINE」(または「ライン」)はいずれもこの用例に従つたもので、「LINE」(または「ライン」)が附加されたことによつて何らの新しい意味をも生じたものではない。
してみれば、引用商標は、それぞれ独立に使用したのでは商標とするに適しない「SUPER」と「LINE」の各文字を一体不可分に結合したものであつて、そうしたことによつてはじめて、一つの新しい造語商標として認識され得ることになつたものなのである。このように、「SUPERLINE」を全体として一体不可分のものとみるところに引用商標の存立の基礎があるのだから、これをしいて「SUPER」と「LINE」に分離して、その称呼や観念を考察するのは不当であるといわねばならない。審決がこのような分離観察を行ない「LINE」の部分のみを要部とみて、これから単に「線」なる観念が生ずるとしているのは、引用商標の性格を無視したものというべきである。
引用商標は、前記のように一種の造語であるが、これによつて看者に何らかのイメージを与えるとすれば、それは全体として「一つのすばらしい線」というイメージであろう。しかし、その場合でも、これを見る者の頭に描かれる映像は一本の線であつて、二本の斜交した線というような映像とは全く異なるものである。
以上のように、本願商標と引用商標とは、その外観・称呼・観念のいずれにおいても同一または類似のものとはいえず、したがつて両者が称呼・観念を共通にする類似の商標であると認定した審決は、その判断を誤つたものといわなければならない。
第三被告の答弁等
一 原告請求の原因等のうち一記載の事実は認めるが、その余の主張は争う。
二 本願商標は引用商標とその外観を異にするものであるが、「ライン」の称呼、「線」の観念を共通にするから類似商標であり、しかもその指定商品においても同一または類似のものであることは明らかであるから、本件審決が商標法第四条第一項第一一号に該当するとしたのは正当である。
三 わが国の英語知識の普及程度からみて、現在、「X」という表示は(1)英語のアルフアベツト第二四字、(2)X字形の物、(3)ローマ数字の一〇、(4)未知数の符号、(5)ビールの強度を示す符号、(6)キセノンという元素の化学記号などと理解されているだけでなく、取引一般の業界においては、「X」の字を商品の品質または型式あるいは番号等を示すためのありふれた記号として使用されることが多く、一般需要者からもまた、そのようなものとして認識されているのであるから、「X」をこのように認識することは、取引の経験則に従つた自然な見方である。
本願商標の構成をみるに、「X」のローマ字一字と日本文字の「ライン」の片仮名文字を横書した形象であるから、これを見る者は、右の表示から自然と、ローマ字はローマ字として、片仮名の部分はそれだけをまとめて一連の片仮名文字として、認識することになる。
そして、ローマ字部分は、単なる「マル・バツ」の「バツ」の記号とか、ローマ数字の「一〇」とか、商品の記号または型式などと認識され、片仮名文字の部分は、一般に「線」「路線」という特定の観念を有する英語「LINE」として親しまれている。
従つて、ローマ字部分と片仮名文字部分とはおのずから軽重の差を生じ、「ライン」の片仮名文字部分も独立して識別の対象となる。このことは簡易迅速を旨とする取引の実際に照し当然のことといわなければならない。従つて本願商標の構成は「X」と「ライン」の一体不可分の熟語とみることはできないのである。原告は本願商標から「交差する二本の線」とか「未知の線」とかいつたような観念を生じ、そのようなイメージを見る者に与えるというが、それは本願商標を採択した原告の主観的な考えにすぎず、一般需要者としては、説明を聞かなければそのようなことはわからないであろう。原告の右主張は、取引の経験則に反するものというべきである。
前記のように、「X」の文字は、すでに商品取引の実際において記号または型式などとして一般に使用されているのに反し、「ライン」の文字は、商品との関係において、何ら直接その品質を示すものではないし、また、一般に親しまれ、しかも記憶し易い部分であるから、本願商標をみるときは、商品の識別標識としての部分は、「ライン」の文字部分にあり、ここから「ライン」の称呼、「ライン」、「線」の観念を生ずるものであるとするのが自然である。
本願商標が一連に書かれているにもかかわらず、これを「X」と「ライン」とに分離して考察すべき理由について審査上の基準とされているところから説明すると、
(1) 本願商標のように英文字と日本文字とから構成されている商標は審査上これを「X」と「ライン」との結合商標とみる。
(2) 本願商標のように「X」の文字部分が記号的であつて、それ自体自他商品の識別性なく、「ライン」の文字部分に一個の独立した称呼観念を有する場合において、これを結合したものが特定の意味の熟語として一般に理解されている場合は分離しないで一体としてみるが、そうでない場合はこれを「X」と「ライン」とに分離し、その各々について考察するのである。
ところで、本願商標は、全体として一つのまとまりをもつているとはいえ、「Xライン」として熟した語ではない。原告のいう「未知の線」あるいは「不可知の線」のイメージも、原告自身の考えにすぎず一般に熟語とはいえない。
従つて、この場合は「Xライン」という構成のとおり全体として考察するとともに、さらにこれを「X」と「ライン」とに分離して考察しなければならない(もし、本願商標が片仮名で一連に「エツクスライン」と書いたものであれば、前記の審査基準に照らして登録されていたであろう)。
のみならず、原告の本願商標を使用する態様をみると、明らかに、原告自身が「X」と「ライン」とを分離して「X」の部分を記号または型を示すものとして使用しており、それは一般取引者および需要者が「ライン」印の称呼観念をもつて取引するにふさわしい使用態様である。このことからも審査上「X」と「ライン」とを分離考察する必要がある。
四 引用商標のうち「SUPER」の語は、「最上」または「最高」との意味に用いられていることから、「SUPER」の文字は取引上商品の等級を示すための附飾として、さらには高級商品であることを誇示するために普通一般に用いられているのが取引の実際である。
そして、このような取引慣習があり、その商品の等級表示にすぎないものとみなされ、そのように信じられている「SUPER」の文字と、そうでない文字とからなる商標については、おのずからその間に識別標識としての機能において軽重の差が生ずるのは自然である。
引用商標における「LINE」の文字部分は、前記の「SUPER」の文字よりも、商品の出所表示として、すなわち、商標の機能としてこれを見る者の注意をひき、しかも、もつとも親しみ易いから、見る者にとつては「LINE」から生ずる称呼である「ライン」、あるいはそれから生ずる観念としての「線」または「路線」という点については記憶し、このような称呼または観念をもつて他の業者の商品と区別し、そのような称呼、観念において信用が形成されるものである。
従つて、引用商標が「SUPERLINE」という一連の構成からなることの故に「SUPER」と「LINE」とに軽重の差を認めないとすることあるいはこれを一体不可分のものとみることは取引上許されるものではない。
原告は既登録の「LINE」または「ライン」の文字を有する先例を挙げて、その主張の例証とするが、そこに挙げられている「LINE」または「ライン」と結合した「DAY」、「HIT」、「RING」、「MAGIC」、「ルミ」、「トリム」等の文字はいずれも識別標識としての機能を有するばかりか、それぞれ全体としても社会通念上一体不可分の語とみるのを相当とするものであるから、これらと「LINE」の部分のみが識別標識としての機能を有する引用商標とは本質的な差異を有し、同列に論ずべき限りではない。
五 商標の類否判断は、商標の外観、称呼または観念によつて決すべく、そのためには、商標を構成する文字、図形もしくは記号またはこれらの結合からなる、その全体の形象を通じ、商標本来の使命とする識別性を不動の基本とし、一般取引の経験則に従つて、その同一または類似に該当するかが判断されなければならない。
また、これを別の面からみると、原告は本願商標についてその登録を求めて出願しているのであるが、かりにこれが登録されたとすると、原告は本願商標について商標権が発生し、商標権者には登録商標の使用権および同一または類似の商標に対する禁止権が発生する。従つて、審査に当つては、当該商標が登録された場合の禁止権の範囲すなわち類似の範囲を想定している。そして本件の場合引用商標権の禁止権の範囲は、「LINE」の部分が要部であつて、「LINE」の禁止権の範囲であると想定している。従つて、これに抵触する他人の出願は商標法第四条第一項第一一号に該当するものとして登録を拒絶する。これは登録商標の保護と同時に、商標による商品取引の保護のためである。
本願商標は、ローマ字の「X」と片仮名の「ライン」と外見上異質の文字が結合されている。そして「X」も「ライン」も、識別標識として軽重の差こそあれ、独立して称呼、観念をもつている。「Xライン」が熟語として一般に理解されているならば格別、そうでないから、簡易迅速を旨とする取引においては、それぞれの取引者ないしは需要者の立場により、その分り易い部分を任意に抽出して「X印」または「ライン印」として取引される性質を有する。従つて、このような分離性を有する構成の本願商標が商標権の対象として登録された場合には、簡明に特徴を表現できる「X」の文字で「Xライン」を代表し、「X」と略称することもできるし、他方、都合のよい時には「ライン」を強調して「ライン」と略称することもできる。かくして、「X」も「ライン」もすべて「Xライン」の類似の範囲すなわち禁止権の範囲であるということができる。原告の本願商標の実際における使用態様は明らかにその典型的な経路をたどつている。
従つて、引用商標において想定されている禁止権の範囲すなわち類似の範囲である「LINE」と本願商標について想定される禁止権の範囲、類似の範囲である「ライン」とは互いに牴触するから、商標法第四条第一項第一一号の規定に該当し、その登録は拒絶されなければならない。
第四証拠関係<省略>
理由
一 原告がその主張の指定商品について本願商標の登録を出願し、拒絶査定があり、さらに、本件審決が出されるまでの手続経過および本件審決の内容については当事者間に争いがない。そして、本願商標の登録拒絶の理由として審決が引用した登録第五七六、〇五四号商標が、旧第六九類電気機械器具およびその各部ならびに電気絶縁材料を指定商品として、昭和三二年二月一日に登録出願がなれさ、昭和三六年六月二四日に登録されたものであることは、成立に争いのない甲第五、第六号証および弁論の全趣旨によつて明らかである。
二 両商標の構成および外観について
右の争いのない事実およびその成立に争いのない甲第一号証の記載によると、本願商標の構成形状は、別紙(一)記載の通り、ローマ字の「X」と片仮名の「ライン」の名文字をやや右に傾斜させて一連に横書きしたもので、各文字はいずれも肉太の角ゴジツク体で、ほぼ同じ大きさに表わされたものであること、
そして、右争いのない事実および甲第六号証によれば、引用商標の構成形状は、別紙(二)の通り、ローマ字の「SUPERLINE」を同じ大きさの角ゴジツク体で一連に横書きしたものであること、がそれぞれ認められる。
両商標の構成が前記認定のとおりである以上、その外観においては互に類似するものでないとするのが相当であり、審決もそのように認めており、この点については当事者間にも争いの存しないところである。
三 両商標の称呼および観念について
審決は、両商標からそれぞれ「ライン」「LINE」の部分を分離抽出し、両商標は「ライン」という称呼と「線」という観念を共通にするものであると認め、これを理由として両商標の類似を肯定し、原告はこれを争つているので、以下右の点について順次検討する。
(一) 本願商標中の「X」の文字について
商品の製造ないし取引において種々の商品につきそれぞれの型、機能等に関する種別を表示するためにローマ字の一個ないし数個を、場合によつては一個または数個の数字と組み合わせて用いることも広く行なわれており、特に本願商標の指定商品に属するラジオ受信機、テレビ受信機、電気洗濯機、扇風機その他についてはしばしば実際に見かけるところである(こういう場合には、当該ローマ字は、単純にローマ字としてだけに用いられているのであつて、他になんら当該ローマ字に特有な意味をもたせているわけではない)。そして「X」の文字もこのような用例のもとに使用されることがあることは否定できないところである。
しかしながら、「X」は、「エツクス」と読まれアルフアベツトの第二四字であるとともに、その文字自体でいくつかの意味をもつものとして一般に理解されている。その中には、わが国民になじみのうすいものもないではないが、
(1) 未知の数もしくは量、またはある未知ないし未決定のもの、何かある解答の求められているものといつたような意味を有すること
(2) 二本の交差した斜線またはこれに近い形状を表象するものとしてもよく用いられること
(3) ローマ数字の一〇を表わす意味にも用いられること(ただし、この場合わが国では普通「エツクス」とはいわない)があり、これらはいずれもわが国民一般にもきわめてなじみの深い意味、用例であるといえる。(同じくアルフアベツトの二六文字でも、イ・ロ・ハ・・・・、ア・イ・ウ・エ・オ・・・・等と同様に番号ないし順番を表示する用例以外には実際上ほとんど用いられないものもあれば、その文字に特有の意味をもたせて用いられるものもあるのであつて、その意味、用法は一律にいうことはできないわけである。)
(二) 本願商標中の「ライン」の文字について
本願商標中の「ライン」が英語の「LINE」の発音を片仮名で表示したものであることは明らかである。ところで、「LINE」は「線」を代表的な訳語とする語であるが、「LINE」にしても、「線」にしても、それ自体でなにか或る具象的な物を表わす語などと異なり、多くの場合、これを修飾し特定するに適した語ないし文字と結合することによつて、あるいは前後の言葉から判断することによつて、はじめてそれがどのようなものであるかを理解することができるという性格の強い語に属するものということができる。したがつて、単に「ライン」とか「線」とかいつても、それだけでは、なお漠然としていて、明確な観念を生じさせ、はつきりとしたイメージをえがかせるのには、どちらかといえば不適当な語であるということができる(わが国において「ライン」として用いる場合は、「線」の用例に比してその範囲がせまいということはいえるけれども、その基本的な性格は「線」の語と共通するものといえるであろう)。また、成立に争いのない甲第一三号証の一、二、四、六ないし一九(いずれも商標公報)によれば、昭和三六年から昭和四〇年にかけて、「アイヨードライン」、「アイライン」、「アイオライン」、「ALOLINE」、「アイヒートライン」、「ミニライン」、「ハイSライン」、「ハイエフライン」、「パワーライン」、「エルライン」、「GUIDELNE」、「VITALINE」、「Variline」、「オートライン」、「AUTOLINE」、「ユーライン」、「ソノライン」、「ヒツターライン」、「フルライン」、「アローライン」、「ママライン」といつたような商標が、電気機械器具、電子応用機械器具、管形電球等本願商標の指定商品と同一または類似と考えられる商品を指定商品として、商標登録の出願がなされ、その出願公告のあつたことが認められる(前記各公報の記載によれば、これらの商標の登録出願日は本件商標の登録出願日よりは後であるが、本件審決のなされた昭和四〇年八月一七日より以前であり、その当時大半は出願公告もなされていたものであることが明らかである)。
なお、指定商品は明らかでないが、原告主張の「DAYLINE」(登録第四二五、九六〇号)「HITLINE」(同第四八五、四三三号)、「RINGLINE」(同第四七六、一五五号)、「MAGICLINE」(同第四九四、八四一号)、「ルミライン」(同第五四六、一〇三号)、「トリムライン」(同第五五四、一〇三号)といつたような商標が登録されていることも口頭弁論の全趣旨によつて認められ、これらは、その登録番号からみて、いずれも引用商標より先に登録されているものと認められる。
そして、右の各商標をみるに、いずれも「ライン」または「LINE」という片仮名またはローマ字を後半部に取り入れて一連に書いたものであるが、それらの商標自体から判断するかぎりでは、右の「ライン」または「LINE」の部分から「ライン」(線)という独自の称呼、観念を生ずるとみられるものとはほとんどなく、それらは大抵当該商標を見る者においてその各前半部に重きをおいて認識し、「ライン」、「LINE」の文字からは単なる附飾語的な印象をうけるのが自然であるとみられるのであつて、いわば全体として一種の造語的な性格をもつているものということができるであろう。
このことは、本件審決当時すでに右のような商標が取引社会に相当数現われるに至つていたことを推認せしめるものであり、つまり、「ライン」、「LINE」という語について、本願商標の指定商品と同様の商品の場合にもこれに附する造語的な商標においてその接尾語としてほとんど無内容的に用いる事例がかなり生じていたということもできるのである(そして、「ライン」、「LINE」の文字ないし語についてこのような使用例が相当に存するということ自体、この語の性格が前記のようなものであることと関連性を有するものともいえるであろう。)。
なお、被告の主張中には、本願商標が全部片仮名「エツクスライン」と一連に書いた構成のものであれば、登録されていたはずであるとの趣旨の部分がある。この見解は、右のような表示方法に従つた場合には、「ライン」の部分だけから独立して「ライン」(線)の称呼、観念を生ずる余地がないとするものであつて、全体として一個の造語的な商標とみようとするものと解される(さらにいいかえれば、「ライン」の文字が独自に称呼、観念を生じ、商標中においてその識別機能上重要な意義をもつかどうかは、これと結合される文字ないし語との相対的な関係においてきまるという趣旨にも解することができよう)。
(三) 「X」と「ライン」との結合について
本願商標の全体の通常の発言が「エツクスライン」であることはいうまでもない。これは、その音数からいつても、また母音、子音の配列順序からいつても、これを一気に発音するのに妨げとなるような点は一つもなく、称呼上一体的に一気に発音するのに適したものと認められる(逆に「ラインX」とした場合は、称呼の点でも途中で発音が分断されるのと対比しても明らかである)。そして、音の強弱という点については、前半の「エツクス」の方が強く、後半の「ライン」の方は比較的弱くひびくものということができる。
次に、本願商標における文字の配列、結合の態様からみて、「X」の文字が記号的な表示とみるのが自然な認識の仕方であるかの点について考えるに、一般にローマ字が商品の型ないしは機能その他による種別を表示するために使用されるといつても、そのような場合は、当該商品の商標とは別個に右のような単なる種別の表示であることがわかるような態様で表示されるとか、商標の主要部のあとに附記的に表示されるとかいつた用法で使用されるのがむしろ普通であつて(このことは当裁判所が真正に成立したものと認める乙第五ないし第八号証、同第一〇ないし第一二号証、同第一三号証の一、二、三、成立に争いのない甲第八号証の一ないし二〇、同第九号証の一ないし七、同第一一、第一二号証の各一ないし一八の広告文書をみてもわかることである)、したがつて、本願商標における「X」の文字と「ライン」の文字との結合の態様からみて、右「X」の文字を商品の種別の表示等単なる記号的表示とみるのは、この種の文字の普通の使用例からいつて、自然な見方ではないといえる。
そして、以上のことと、前に(一)および(二)で述べたことならびに前に認定した本願商標の構成、外観からわかるように、同商標を構成する文字がわずか四字にすぎず、同一の字体で大きさもほぼ同じであること、冒頭の「X」の文字自体が単純簡明で、かつ親しみのある文字であつて、その形態からも見る者に明確な印象を残すと考えられるものであることなどを総合すると、次のように認めることができる。すなわち
(1) 本願商標がローマ字の「X」と片仮名の「ライン」とから成つているところから、取引者または需要者で、この「X」を商品の型式等を表示し記号的に用いたものとみて、単に「ライン」印と呼んだり、「ライン」の文字が商品の出所を示すのに重要な意味をもつものとして、この「ライン」の部分だけで右商標を記憶する者があるとしても、それはむしろ例外的な場合であり、
(2) それよりも、「X」と「ライン」とを分離することなく、これを一体的に認識し、「エツクスライン」と呼び、全体として「Xライン」のブランドとして記憶する者の方がはるかに多いであろうと考えられる。それらは、あるいは本願商標の構成から「X」の文字がもつている前記(一)の(1)または(2)の意味を「ライン」に結びつけ、「X」字状に斜に交差した線を心に描く者、あるいは「未知の線」と考える者、あるいは今まで知られなかつたなにかある特徴をもつたものというような感じをうける者、あるいは「X」の文字から鮮明な印象をうけながらも、その意味するものに深くこだわることなく、いわば単純に全体として一種の造語として感じ取り、一体的に記憶する者など、その認識の仕方には多少の差があるにせよ、いずれも、「Xライン」の全体を一体不可分的に認識するものであつて、「X」の部分と「ライン」の部分を結びつけずにそれぞれが独立した意義をもつものとして認識したり、あるいは「X」の部分を捨象し単に「ライン」の部分だけに重点をおいて認識したり、または「ライン」の部分だけから本願商標全体としての何かあるイメージを与えられるといつたような認識の仕方ないしは感じ方をし、その部分だけで右商標を記憶するものでないという点で共通するものということができる。すなわち、(1)と(2)とのそれぞれの認識の仕方を比較した場合(2)のように「Xライン」を商品の識別標識として一体的に認識し、一体的に記憶するものと認める方が自然な見方であると考えられる。
被告は、審査上の基準に照らしても、本願商標は「X」と「ライン」が一方はローマ字他方は片仮名であるから、これを二要素に分けて考察すべく、「X」は記号的であるに反し、「ライン」はそれだけで独立して称呼、観念を生ずるから、本願商標からは単に「ライン」(線)の称呼、観念が生ずると判断すべきは当然の帰結である旨主張する。
しかし、ローマ字でも、前にも述べたように実際上ほとんど記号的にしか用いられないものもあれば、他に世人に熟知されたいくつかの意味合いのもとに用いられるものもあり、その意味合いによつて、どのような文字ないし語と不自然でなく結合することができるかが考慮せらるべきであるし、またその使用の態様も度外視することができないものである。また、元来文字もしくは語を結合させて成る商標にあつては、その各構成要素をなす文字(語)のもつそれぞれの意味合い、性格その他その組合せ方等によつて、その結合の強弱の度合が異なることは当然であつて、それは具体的にそれぞれの場合について判断せらるべきものである。
本願商標にあつては「X」と「ライン」の結合は、前に述べた理由により、これを分離して「ライン」の部分のみより独立して称呼、観念が生ずるとみるのはむしろ自然でないと考えられる程度に強固なものと認められるのであつて、被告の前記主張は本願商標のような場合にはあてはまらないものというべきである。
また被告は、原告が本願商標を現実に使用している態様からみても、「X」と「ライン」とを分離して考察すべきであると主張している。しかし、出願商標が登録要件を具備するかどうかを判断するため既登録商標との類否を考察する場合には、願書添附の書面に示されている商標に基づいて、これを既登録商標と比較対照してなせば足りるものと解すべきであるから、被告の前記見解も採用しがたい。
(四) 引用商標の称呼、観念について
引用商標の構成が前記認定のとおりであることと、わが国における英語の普及程度とを合わせ考えれば、引用商標が、全体としては「スーパーライン」または「シユーパーライン」と発音されるものとみるべきことは明らかである。
次に、引用商標が「SUPER」と「LINE」の各文字(語)を結合したものであることは取引者および一般需要者にも直ちに了解できることであり、また「SUPER」が「非常にすぐれた」、「ごく上等の」、「特別高級の」といつたような意味を有し、ことに商品についてその品質のすぐれていることを誇示するためにしばしば用いられる語であることは広く知られているところである(本願商標および引用商標の指定商品の需要者層が、一般的にいつて、「SUPER」や「LINE」の文字を見てその意味を直ちに理解することができないほど知識の程度が低いものとは考えられない)。しかも「スーパーマーケツト」、「スーパーマン」のように特殊の意味をもつ熟語として用いられる場合を除いては、「SUPER」は、一般には前記以外の意味で用いられることのない語である。「SUPERLINE」が、その全体で一つのまとまつた特殊の意味を有するものと解すべき根拠はなく、「LINE」に「SUPER」を結合させたことによつて、当該商品の品質の高級なことを表わし、ないしはこれを誇示するというようなことでなく、これと別個の意味で「LINE」の意味内容を限定し、あるいは全体として、単なる「LINE」以外になんらかの特異な観念を生ぜしめ、変つたイメージを与えるというようなことは考えられないところである。したがつて、取引者または、需要者としては、引用商標のうち「SUPER」の部分にはたいして関心をもたず、「LINE」の部分に重点をおいて認識し、この部分によつて引用商標を記憶する者が少なくないであろうことは、これを推測するに難くないところである(本願商標の場合と異なり、「SUPER」の部分が自他商品識別機能上受け持つ力のきわめて薄弱なこととの相対的な関係において「LINE」の部分が右の識別機能上重要な部分となり得るものといえる)。
もつとも、「SUPER」と「LINE」が同一の態様および大きさで一連に書かれており、全体の音数が少なく一連に発音するのに容易であることその他「LINE」について前記のような附飾語的使用例の存すること等を合せ考えると、引用商標を全体として「スーパーライン」印と呼び一体的のものとして認識し記憶する者もあり得ることは、必ずしもこれを否定することはできないであろう。しかし原告の主張するように右のような認識の仕方が唯一のものであるとするのは当を得ないものといわねばならない。
三 両商標の類否
以上検討したところによれば、引用商標にあつては、これを「SUPER」と「LINE」とに分けて考察し、「LINE」の部分だけでも独自に「ライン」(線)という称呼、観念を生じ、自他商品の識別機能を有し得るものということができるが、これに対し、本願商標にあつては、「X」の文字を分離して、単に「ライン」の文字の部分だけから独立して称呼、観念を生じ、この部分だけで独自に自他商品の識別機能を有するものとみるべきでなく、むしろ「X」の文字が右の識別機能上重要な役割りをもち、それが「ライン」の文字と強固に結合していることから、むしろ「Xライン」の全体でもつて不可分的に右の識別機能を具有するものと認めるのが相当である。本願商標と引用商標をそれぞれその指定商品に附したものが取引市場に出た場合を考えてみても、その商品について出所の混同を生ずるおそれはほとんど存しないものと考えられる。指定商品の性質や需要者層の点についても、右に反する認定をすべき事情の存することを認めるに足る資料はない。
したがつて、両商標が「ライン」の称呼と「線」の観念を共通にし互に類似するものであるとする審決および被告の見解は妥当でなく、両商標は互に類似するものでないと認めるのが相当である。
被告は、商標が登録された場合に生ずる禁止権の範囲という点からみても、本願商標は引用商標と類似するものとしてその登録を拒絶すべきであると主張している。この主張は、本願商標から単に「ライン」(線)なる称呼、観念を生ずるとする見解をとることを前提としているものであるが、当裁判所としては、本願商標は「Xライン」の全体が一体不可分的に自他商品識別標識としての機能を有するとし、被告主張の前提たる見解をとらないこと前記のとおりである。したがつて、本願商標が登録されたとしても、単に「ライン」(線)なる称呼、観念を生ずる商標の使用に対しては禁止権は及ばないとみるべきであり、したがつて引用商標との間に禁止権の範囲の重複、競合を生ずる余地はないものと考える。
四 結論
以上説明のとおりであつて、本願商標が引用商標と類似するものであり、商標法第四条第一項第一一号に該当するとした審決はその判断を誤つた違法があるものといわねばならない。
よつて、右審決の取消を求める原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 多田貞治 古原勇雄 田倉整)
別紙(一) 本願商標<省略>
別紙(二) 引用商標<省略>